<金口木舌>老いの喪失感


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 「そろそろ車の運転を止めたら?」。私事で恐縮だが、数年前、70代後半を迎えた父に切り出したら、激しい抵抗に遭った

▼運転能力の衰えを気遣って進言したつもりだった。しかし、本人にとっては行動範囲が制限される一大事。最終的には運転をやめてくれたが、老いの“喪失感”に気付かず、きちんと説得できなかったことが今でも悔やまれる
▼高齢ドライバーを事故からどう守るか。4人に1人が65歳以上の高齢社会を迎えた今、社会全体で真剣に考えないといけない大きな課題だ
▼運転免許証返納の動きもその一つだろう。しかし「車社会」の沖縄では、車がなければ生活圏が狭まる。高齢者が生きがいの喪失にもつながりかねない。大型店舗が増え、徒歩で行けるマチグヮーが少なくなったことも高齢者の孤立感を深める一因だろう
▼茨城県城里町の社会福祉協議会は、町の補助を受けて「ふれあいタクシー」を運営している。予約すると好きな場所まで運行してくれる。普通なら7千円ほどかかる距離でも定額300円の割安料金だ。県内でも、街中を巡回する「ワンコインバス」が増えてほしい。免許証返納を促すだけでなく、積極的な高齢者の外出支援策を県内自治体や福祉団体にも期待したい
▼高齢者の“喪失感”をしっかり受け止めることが肝心だ。超高齢社会の細やかな支援の在り方を社会全体で考えたい。