<金口木舌>「民意」は語れまい


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 街を往来する人々の会話、ため息が聞こえてきそうだ-。街の路上と人に焦点を当てた写真家・森山大道さんの展示会「終わらない旅 北/南」が、那覇市の県立博物館・美術館で開かれている

▼沖縄と北海道の写真を並べた展示の仕方が、印象深い。人々は物憂げな表情を浮かべ、街や風景に溶け込むかのようだ。北の民と南の民。対極の土地に暮らす人々の写真から同質のにおいを感じた。土地に根付き、地方に横たわる問題に苦悩しながら、たくましく生きる人々の息遣いが伝わってくる
▼片や、人々のにおいがしないのが、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を強行に進める「中央」という場。防衛政務官が、県選出・出身国会議員が辺野古移設断念を求めた場で「永田町の民意」を持ち出した一件は、ブラックジョークかと思った
▼「民意」とは国民、人民の意思。基地の移設問題に翻弄(ほんろう)される名護市民が、「新基地はいらない」と苦悩の末に選択した選挙結果が「民意」と言える
▼力任せの永田町方式に、地方は敏感だ。多くの地方紙は社説で辺野古移設を疑問視する。「移設反対の民意は重い」(信濃毎日新聞)、「辺野古移設は見直すべきだ」(宮崎日日新聞)などと強権的な政治手法にくぎを刺す
▼十数年もの移設問題に人生を賭した人々がいる。こうした人々と向き合わない為政者に「民意」は語れまい。