<金口木舌>「ばかもーん」の声


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 子どもに「なんで電話を表すのに指を回すの?」と聞かれたことがある。プッシュ式電話の世代だ。この世代がダイヤル式の黒電話を物珍しそうに見る。昭和の家族を描くアニメ、サザエさんの世界

▼「地震、雷、火事、親父」の中で今や“絶滅危惧種”となった頑固親父も日曜夕に辛うじて確認できる。カツオやサザエを正座させて叱っていたお父さん、磯野波平の声を44年余担当した永井一郎さんが82歳で亡くなった
▼京都大学文学部仏文科を卒業後、役者を志して上京。劇団では老け役を引き受けた。米西部劇「ローハイド」の吹き替えを担当して、声優に転身した
▼「ゲゲゲの鬼太郎」の子泣きじじい、「宇宙戦艦ヤマト」の佐渡酒造など個性豊かな役を演じた。役作りのコツを「まず役の人物が何を自分の幸せとしているかを探して。それが分かれば役作りはほとんどできたといえる」と記す
▼土曜夜の報道番組でのナレーションも印象深い。事件を報じつつ「何とか仲良くできんもんかのう」と感想を伝える“波平さん”に共感した人も多いだろう。「どんな人間も幸せを追求している」と永井さん。個々人の尊厳を大切にしたいとの思いが伝わる
▼波平が「ばかもーん」とカツオを叱るのは他人様に迷惑をかけた時だけだそうである。あの声が消えて、他者への思いやりも薄れる今、日本の父親像も変わっていくのだろうか。