<金口木舌>「ガンジューイ」から始めよう


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 お年寄りの前では、しまくとぅばを使うのにためらう。失礼ではないか、間違ってはいないか気になる。結局やまとぅぐちを使うものの、抑揚が独特らしく「兄さん、どこの人ね」としばしば尋ねられる

▼若手の民謡歌手が操る巧みなしまくとぅばに聞きほれる時がある。旧正月に沖縄市の老人施設であった芸能集団の慰問でも、うちなーんちゅの琴線に触れる言葉の力を感じた
▼威勢よく「いい正月でーびる」とあいさつする20代の民謡歌手に、90代のおばあさんが「方言上手ですね」と合いの手を入れ、拍手を送った。孫世代のしまくとぅばに心がときめいたようだ
▼しまくとぅばの風化を目の当たりにした山之口貘を思い起こす。1958年、34年ぶりに帰郷し、迎えの人に「ガンジューイ」とあいさつした貘さんへの返事は「おかげさまで元気です」。その時の戸惑いから「弾を浴びた島」という詩が生まれる
▼有名な「ウチナーグチマディン ムル イクサニ サッタルバスイ」に深い失意が刻まれる。55年余を経て、戦争を生き延びたお年寄りが若者のしまくとぅばに拍手を送る。貘さんが存命なら心が和らいだだろう
▼エッセーで「私の耳に残っている沖縄方言はどこへいってしまったのだろうか」とも記した貘さんに届くよう、片言でもしまくとぅばを話してみよう。まずは「ガンジューイ」から始めるか。