<金口木舌>立ち上がる


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 「金メダルは駄目かな」。14日、ソチ冬季五輪フィギュアスケート男子で金メダルを獲得した羽生結弦選手はフリーの演技を終えた後、得点を見詰めこう思ったという。しかし、フリー後半の力強さとしなやかさは圧巻だった。同競技で日本勢初の金メダリスト。大いに喜びたい

▼フリーでは冒頭に転倒、その後の着氷も乱れた。ただ、そこからの踏ん張りは見事だった。羽生選手だからこそ出来たのではないか。崩れそうになっても、自分を見失わない強さを感じた
▼東日本大震災で被災した。震災直後、恐怖の記憶におびえ、スケートを続けるか否か悩んだこともあった。が、阪神大震災のあった神戸で滑ったのをきっかけに、スケートで生きるしかないと決心した
▼転んでもすぐに立ち上がり滑り出す。最後まで諦めることなく全力を出し尽くす。羽生選手の歩んできた険しき道が、14日の堂々とした演技を引き寄せたと思う
▼1月の冬のインターハイに沖縄県勢初のフィギュア代表として出場した花城桜子さん(那覇国際高1年)は仙台にいたころ、羽生選手と同じクラブで練習した。羽生選手の快挙達成は、花城さんをはじめ同世代に希望と勇気をもたらしたに違いない
▼競技後の記者会見で、羽生選手にはしゃぐ様子は全くなかった。完璧な演技での栄冠でなかった悔しさがあるのだろう。負けん気が、さらなる進化を予感させる。