<金口木舌>高齢者が地域で暮らすには


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 「おばあちゃんが動き回って、家族全員へとへとよ」。知人がこぼした。認知症の症状が出た祖母は夜も外に出たがり、家ではおなかを壊すほど食べてしまう。常に監視が必要で家族は気の休まる暇がない

▼人ごとではない。65歳以上の7人に1人が認知症との推計がある。超高齢社会で家族がそうなる可能性もある。それでも自宅でみとりたいと頑張る人に冷や水を浴びせる判決が昨年出された
▼認知症で要介護4だった91歳の男性がJR東海道線の線路に進入し、列車にはねられて死亡した。裁判所はJR東海の訴えを認め、男性の遺族に振替輸送などの損害約720万円の支払いを命じた
▼事故は男性の長男の嫁が片付けをし、85歳の妻がまどろんだ、わずかな時間に起きた。家族が協力しても一瞬の隙はあろう。完全に防ぐには拘束しかない。判決後、長男は訴えた。「父は住み慣れた自宅で生き生きと過ごしていたが、それは許されないことになる」と
▼自民党の憲法改正草案は、現憲法にない規定「家族は互いに助け合わなければならない」を入れた。助け合いを否定するつもりはないが、家族の責任がことさらに強調される社会に危うさを感じる
▼介護が施設から在宅に移る中で家族介護のリスクは顧みられなかった。事故は控訴審で争われているが、私たちにも高齢者が地域で暮らせる社会をどうつくるかが問われている。