<金口木舌> 貨幣の価値


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 夏の盛りに患った若旦那の願いは「ミカンが食べたい」だった。「息子の命が買えるならいくらでもいい」と大旦那に命じられた番頭。汗だくで見つけたミカンはなんと1個千両

 ▼江戸時代を描く落語「千両みかん」は物の価値のあいまいさを笑う。冬なら二束三文で買えるミカンも、季節外れだと貴重品。千両は今の相場に換算すると数千万円から1億円超だとか
 ▼価値が分からないといえばビットコインという新たな貨幣が問題を引き起こしている。インターネット上の仮想通貨だが、特定の発行者も、価値を保障する国や銀行もない。2009年に登場したが、開発者は「ナカモト」名の日本人や欧米のハッカー集団など諸説ある
 ▼そんな“お金”が世界中に1兆から7千億円も流通しているという。破綻した世界最大の取引所は「不正アクセスで引き出された可能性で」約480億円が消失したと説明する
 ▼通常のお金と違って公的な規制や保護はなく、あくまで自己責任だ。世界で自由に取引できる利点もあり、急速に拡大した
 ▼皮をむいたら10袋あった千両ミカン。若旦那から3袋をもらった番頭が「これだけで300両…」と考え、出奔してしまうというのが落語のオチだ。さて、米国などが監視を強めるこのコインの行方は? 通貨の革命とも言われる利便性と価値の両方を維持できるかどうか。