<金口木舌> クリミアに平和の灯を


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 看護学校では、病院実習に入る前に宣誓式が行われる。一人一人がろうそくを手に、ナイチンゲールの像から火をともす。この厳かな儀式は、ナイチンゲールが戦場で夜も病床の見回りを始めたことに由来する。その姿から「ランプの貴婦人」の異名が生まれた

 ▼時は1854年。英・仏・オスマン帝国とロシアによるクリミア戦争真っただ中の野戦病院だった。ノミやネズミがはびこる不潔な実態を見た彼女は、トイレ掃除から始め、衛生改善に努めた
 ▼看護職が一段下に見られていた時代。軍幹部と衝突しながらも、食事の充実、読書室設置など精神面のケアにも力を入れた。環境が良くなると、兵士の死亡率も40%から5%に下がった。苦労をいとわない看護で彼女は「クリミアの天使」と呼ばれた
 ▼そのクリミアが今、緊迫している。ロシアは軍事介入の構えを捨てず、米欧は経済制裁に踏み切る。「同胞の保護」というロシアの言い分は、戦争を仕掛ける側の決まり文句でしかない
 ▼歴史をひもとくと、何度も紛争の場となってきたクリミア半島。ナイチンゲールは灯をともす献身的な看護で多くの命を救った。21世紀に生きる私たちは、外交の力で紛争に至る道を断つことができるはずだ
 ▼同じ黒海に面するソチで、今夜パラリンピックが開幕する。この地には戦火よりも平和の灯こそがふさわしい。