<金口木舌>震災語り部タクシー


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 「復興と復旧の違いってご存じですか」。先日、仙台で「震災語り部タクシー」に乗った。出発早々、運転手の齋藤盛雄さんが問い掛けてきた

▼案内してくれたのは仙台市沿岸の蒲生(がもう)地区。1階の壁と窓が壊れた家が今も何十軒と残っている。室内の床一面には灰色の泥、壁には水の跡、押し入れには布団が入ったまま。時間があの日で止まっている
▼「3年もたつのに」とこぼすと、「まだ3年しかたっていないんですよ」と齋藤さん。「道路や電気、水道などの復旧は日本の力は世界一です。でも、普通の生活に戻る復興はまだまだです。3年はそんな月日です」
▼齋藤さんも被災者だ。家族は無事だったが、海沿いの実家は津波で流され、親戚や友人を何人も失った。震災翌日から連日、報道関係者らを乗せて被災地まで往復した。見慣れた町が地獄絵と変わった現実が受け入れられない。がれきの間から出ている腕や足に何度も涙した
▼仕事とはいえ、被災直後、爪痕の生々しい中を走ることに葛藤した。今も語れないことがある。時々、心の中が波立つ。それでも使命感で伝え続ける。報道されていない現場も努めて案内する。被災地の本当の姿を知ってほしいから
▼3・11を過ぎると、訪れる人も報道も減っていく。風化が進む今、被災地を「忘れない」ではなく、もっと主体的に「覚えておく」ことが一層大事になる。