<金口木舌>袋中上人の保育園


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 京都鴨川のほとり、祇園の近くに檀王法林寺という寺がある。エイサーの起源とされる念仏踊りを沖縄に伝えた袋中上人が402年前に開いた。福島生まれの袋中上人は1603年に来琉し、3年の滞在中に尚寧王に厚遇され、仏教の言葉を分かりやすく唱えた念仏踊りを広めた

▼寺の境内にだん王保育園がある。ここは京都で最初に夜間保育を始めた園だ。戦後の混乱が収まらない1952年当時、生活のため夜に働かざるを得ない親が多くいた
▼親の一人が住職に訴えた。「仕事に出る間、子どもを柱にくくりつけている」と。そうした子を集めて保育を始めると、夜は親が見るべきだ、保母に深夜労働を強いるのかと批判も出た
▼しかし住職の信ヶ原良文さんはひるまなかった。「じゃあ、あなたがこの子たちを見ますか」。息子で現住職の雅文さんは「弱い立場の人を救おうとした袋中上人の教えを受け継いだだけ」と話す
▼痛ましい事件が起きた。子の預け先を探す母親が頼ったのは、インターネットで仲介されるベビーシッターだった。メールでやりとりするだけのよく知らない人に子を託す現実に驚いた
▼必要に迫られ、ネットに頼らざるを得ない親の事情もあろう。そもそも昼間預ける保育園も不足している保育環境だ。保育制度の行き届かない場所で幼子が犠牲になる。この社会を変えるのが、大人の責任だ。