<金口木舌>被爆クスノキの歌


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 木の生命力が人々を勇気づけることがある。東日本大震災の津波に耐えて名勝・高田松原の約7万本の松で唯一残った「奇跡の一本松」は、被災者に希望を与えた

▼長崎に投下された原爆の爆心地から約800メートルにある山王神社に2本の大木がある。原爆の熱線で焼け焦げ、幹も枝も吹き飛ばされ、枯れたと思われた
▼2年ほど経て新芽が出た時、人々はクスノキに抱きついて喜び「被爆クスノキ」と名付けた。その苗木は平和の象徴として全国に渡り、沖縄市や北谷町でも被爆クスノキの2世が植えられた
▼歌手の福山雅治さんが被爆クスノキをテーマにした新曲「クスノキ」を出した。「涼風も爆風も/五月雨も黒い雨も/ただ浴びてただ受けて/ただ空を目指し」。つらい運命を乗り越え、たくましく育つ樹木の姿を歌う
▼長崎市出身の福山さんは父親が被爆したという。先日のラジオ番組では「当事者として…。僕らは被爆2世と呼ばれている。そういう人じゃないとなかなか書かないだろう」と話した
▼原爆を題材にした漫画「はだしのゲン」を学校で閲覧制限するなど、子どもたちの目から、原爆や戦争のむごたらしさを覆い隠そうとする動きがある。目隠しされて戦争や原爆の実相が忘れられていくとすれば、私たち“戦後2世”の責任だろう。いま伝えなければならないことをあらためて考えたい。