<金口木舌>障がい者権利条例


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 国際通りのスクランブル交差点で視覚障がい者の男性が前に進めず、途方に暮れていた。通り掛かった女性が手を差し伸べ、目的地の店まで手を引き、買い物を手伝った

▼別れ際、男性は言った。「迷惑掛けてごめんなさい」。これを聞いて女性は悲しくなった。男性はこうも言った。「私みたいな障がい者を迷惑と普通の人たちは思う」「助けを求めたら怒鳴られることもあったから」
▼このやりとりを専門学校生の仲本琴絵さん(24)=北谷町=が2月下旬、フェイスブックにつづった。男性が受けた仕打ちを「普通」のことにせず、「目の見えない人の手を引くことが普通でなくちゃならない」。共感が広がり、シェアは1万1千件余に及んだ
▼障がい者への差別を禁止し、差別事例を解決する仕組みを整えた県の「障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会づくり条例」が1日に施行された。障がい者への差別をなくす機運を県民全体で盛り上げたい
▼条例制定前の聞き取りで、障がいを理由にバスの運転手から乗車を拒否されたり、児童施設への入園を断られたりした体験が寄せられた。条例が目指す共生社会の実現は容易ではなさそうだ
▼仲本さんは、この男性が謝ることなく生きられる世の中になってほしいと願う。他者を思いやる優しさと行動力を起点に、条例の理念を県内の隅々に根付かせたい。