<金口木舌>血の通った社会保障を


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 好物だというまんじゅうを口元に運んであげると、ベッド上で無表情だった女性の頬が緩んだ。一口ずつ味わう姿を、家族はいとおしそうに見詰める

▼沖縄市で「NPO法人口から食べる幸せを守る会」の理事長で看護師の小山珠美さんの講演を聞き、高齢者医療の原点に触れたような気がした(3月31日付ライフ面)
▼病後、自力での飲み込みが困難となった高齢の患者を、看護師、言語療法士、栄養士など病院スタッフがチームでサポートする。胃ろうで口から食べられなかった患者が再び自ら口で食べる姿は、人間らしい生活にとって食がいかに大切か、考えさせられる
▼「長生きを楽しみ、口からおいしく食事を取れることが人間の尊厳の基本だ」。小山さんはこう強調する。患者の食べる力を回復し、退院させることが守る会の目標だ。「目の前にいる患者を、自分の将来像だと思って見てほしい」。小山さんは、この国の高齢者医療や介護の在り方を問う
▼一方、この春から高齢者医療への風当たりがますます強まっているようだ。70~74歳の医療費窓口負担で2割の引き上げ、後期高齢者医療制度の保険料の変更などだ。社会保障の充実と税の改革は一体で-との政府の国民への約束は偽りだったのか
▼この国は個人の尊厳を守り、血の通った社会保障を打ち出せるのか。国民は答えを待っている。