<金口木舌> 善春さんの「覚悟はあるか」


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 「赤紙の 覚悟はあるか 有事法」の文字に背筋が伸びた。沖縄市役所で開かれた書道展でのこと。詰問交じりの叱声(しっせい)を聞いた気がする。書の主は3月に83歳で亡くなった新垣善春さん

 ▼社民党県連の元委員長というより社会党の闘士という呼称が似合う。護憲反安保県民会議や平和運動センターの議長を歴任した。その目指す方向とは真逆に国の政治が動く中での訃報だった
 ▼たばこを吸う姿が印象に残る。県議会会派室の隅で紫煙をくゆらせ、碁を打った。年若の記者にとって、老練の政治家は手ごわい相手。質問をぶつけても、笑みを浮かべて「さあねえ」。煙幕を張られ、記者は頭を抱えた
 ▼新垣委員長率いる社会党県本部が党中央と関係を絶ったことがある。「基地との共存、共生」を県民に求めた宝珠山昇防衛施設庁長官の罷免を迫ったことがきっかけだった。1994年9月、社会党は連立与党の一翼を担っていた
 ▼新垣さんは「県民の命に関わる重要問題」と捉え、党中央との決別を覚悟した。県民意思を体し、国政と対峙(たいじ)する地方政党の存在意義と政治家の矜持(きょうじ)を見た。普天間問題で沖縄の為政者が演じた転倒劇を見た今こそ、しかと記憶にとどめておこう
 ▼「有事法」を「改憲」や「集団的自衛権」に置き換えて考えたい。国の形を変えようと急(せ)く政治家に「覚悟」はあるか。けむに巻くでは済まされぬ。