<金口木舌>思いやる心


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 13年前のことになる。取材で訪れた韓国で若手劇団員と交流する機会があった。韓国の若者20人と日本人1人。片言ながら日韓英、三つの言葉を駆使して意気投合した。座長は翌年、沖縄に訪ねてきてくれ、那覇のまちを案内した

 ▼忘れられないのは、勇気を出して「カムサハムニダ」(ありがとう)と発したら、若者が喜んでくれたこと。にわか仕込みの韓国語ではあったが、おかげで場が和み、1週間の旅程を笑顔で過ごせた
 ▼そうした経験があったから、最近のニュースを悲しく思う。サッカーJ1、浦和のスタンドに「日本人以外お断り」と受け止められる横断幕が掲げられたことや、四国遍路の休憩所に外国人排除の貼り紙があったことだ
 ▼相手を知らない、理解する気がないからこその行為だ。互いに顔を合わせ話し合える間柄であれば、こんな貼り紙や横断幕はなかっただろうし、そもそも感情的な対立も起こらなかったはずだ
 ▼小説や漫画、アニメ、日本発の文化は世界に広がり、受け入れられている。一部の人による日本人と「それ以外の人」を分ける行為は、開放されている友好の扉を自ら閉ざすだけでしかない
 ▼直接顔を合わせられなくても未来へ向け、友好関係を創造するには、ほんの少しの想像力があればいい。相手が何を思い、何に関心があるのか。「思いやる心」こそ日本人の美徳だったはずだ。