<金口木舌> 沖縄を描き続けて


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 「私の宝物よ」。アトリエの本棚から数冊の色あせたスケッチブックを取り出して見せてくれた。沖縄の女性たちを太い線で描く力強さに引き込まれた

 ▼画家の宮良瑛子さんが復帰前後、糸満などの市場へ足しげく通い、無我夢中で描いた素描の数々だ。太い足で地面を踏みしめ、魚を売り歩くバイタリティーあふれる女性たちが魅力的だ。代表作「アンマー・シリーズ」はここから生まれた
 ▼女性、平和、命をテーマに描いてきた宮良さんの個展が、埼玉県の「原爆の図丸木美術館」で19日から始まった。宮良さんにとって県外で初めての個展だ。「アンマー・シリーズ」はもちろん、沖縄戦の痛みを描いた「シリーズ・焦土」も展示されている
 ▼宮良さんは、市場で元気に働く女性たちの背後に、沖縄戦の影を感じたという。「沖縄戦のことを深く語る女性もいれば、困難を笑い飛ばして語る人もいた。苦難の中に生きてきた女性に、生きるエネルギーを感じた」
 ▼個展が開かれている丸木美術館は、画家の丸木位里、俊夫妻が建てた美術館だ。丸木夫妻の作品は宜野湾市の佐喜眞美術館に収蔵されている「沖縄戦の図」などが有名だ。命を暴力的に奪おうとするものへの怒りが、宮良さんの作品と共通する
 ▼沖縄戦、戦後と沖縄が抱えてきた不条理を一貫して描き続けてきた宮良さん。その思いが多くの人に伝わってほしい。