<金口木舌>「うま味」を伝える料理人


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 「子どもたちに好きな料理を聞いたらカレー、ハンバーグ、スパゲティー。和食は一つも出ない。このままでは日本料理は滅ぶと思った」。こう話すのは京都の老舗料亭「菊乃井」主人、村田吉弘さんだ

 ▼昨年、和食がユネスコの世界無形文化遺産に登録された。村田さんはその立役者の一人だ。日本料理アカデミー理事長として登録に向け活動してきた。が、村田さんは「これからが出発」と言う。主目的は子どもの“食育”だからだ
 ▼和食の神髄は昆布やかつお節からとる「うま味」だ。欧米では味覚としての認知が低かったが、今や甘み、苦み、酸味、塩味に次ぐ第5の味覚として注目される。私たちの味覚の原点である母乳にもうま味成分は多く含まれる
 ▼しかし日本の食が洋風化する中、村田さんは「子どもたちが『うま味』を失ってしまう」と危惧する。アカデミーでは小学校にプロの料理人を派遣し、子どもたちにかつお節から出汁(だし)を取らせ、うま味を教える
 ▼豚肉とかつお節の合わさった、沖縄そばの出汁の香りが好きな人は多かろう。舌が覚えているだけでなく、限られた素材をおいしく食べる知恵が「うま味」なのだ
 ▼出汁を生かした料理法により和食は低カロリーで栄養バランスが良く、長寿の源にもなった。世界遺産となったうま味の魅力が次世代で失われるのは悲しい。沖縄でも食文化を伝える工夫が必要だろう。