<金口木舌>若夏のころ


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 5月に入った。夏も近づき、あすは八十八夜だ。唱歌のように茶摘みを思い出すが、それは県外の話。本島北部では日本一早い新茶の収穫を既に3月に済ませ、今は二番茶のころだ

▼沖縄には他府県と違う季節感がある。四季の変化に乏しいともいわれるが「うりずん」から「若夏」へと移る今の時期は実に味わい深い。風の移ろい、陽光の輝き、緑葉の色合いが、日ごとに夏へと向かう
▼1711年の琉球語辞典「混効験集」によると、うりずんは麦穂が出る旧暦2~3月、若夏は稲穂が出始める旧暦4~5月をいう。夏を表す言葉の豊かさに、先人の優れた感性を見る。うりずんと若夏について、沖縄学の第一人者・外間守善氏は「沖縄の古語で、とりわけ美しい季節感を持つ語」「春や初夏と言いかえることができない」とたたえる(「沖縄の言葉と歴史」)
▼若夏は古くはおもろさうしや県内各地の古謡にも詠まれた。組踊「銘苅子」では天女の登場場面で〈若夏がなれば心浮かされて玉水に降りて頭洗は〉と歌われる
▼だが意外にも、伊波普猷は戦前「とうに死語となって」と記している。「夏(なち)口(ぐち)」に代わっていたそうだ。その後、1973年の若夏国体に使われ、広辞苑にも収録されて、今や復活を果たした
▼梅雨入り前の陽光に満ちた爽やかな若夏。連休後半は外の空気を吸って、一年で最も快適な季節を満喫したい。