<金口木舌> 尊厳支えるケア


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 検査室に向かう患者を看護師が呼び止め、車いすに座らせる。点滴のチューブを抜かないように、分厚い手袋を患者に差し出す

 ▼医療現場で安全確保を目的に患者の行動を制限する「抑制」の場面が寸劇で演じられ、参観者からは「よくある」との感想が漏れた。昨年、県内で開かれた日本老年看護学会の研修会の光景だ
 ▼転倒防止のため身体をひもで縛り、おむつ外し防止でつなぎ服を着せる。これらも「抑制」だ。安全・安心のためと言われると「必要かも」と思う。半面、患者の人権や尊厳が脅かされたり、心身の機能低下を招いたりしないか心配もある
 ▼認知症患者が徘徊(はいかい)する病棟では「抑制」が少なくないと聞く。治療でやむを得ない場合はあろう。だが本当に必要かという問い掛け、安易な「抑制」を減らす工夫も必要だ
 ▼那覇市のオリブ山病院では14年前から「抑制」外しに向けた看護を実践している。点滴の管をタオルで覆い見えなくする。おむつの一斉交換もやめ、個々の排せつリズムに合わせ看護師らがトイレに付き添うことで「抑制」は着実に減ったという
 ▼国の統計では65歳以上の7人に1人が認知症を患っており、高齢化の進展に伴い増加が予測されている。個人の尊厳を支えるケアの在り方も問われよう。きょうは憲法記念日。憲法が保障する「健康で文化的な生活を営む権利」をあらためて考えたい。