<金口木舌>サイパン陥落、70年の節目に


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 毎年この時期になると、サイパン島の照り付ける日差しを思い出す。南洋群島帰還者会がきょう同島で慰霊祭を開く

▼サイパン、テニアンの陥落60年、65年の節目に現地で取材した。帰還者会の方々と島中を巡り、当時住んでいた地域、生死をさまよった場所を訪れた。さまざまな体験を聞き逃すまいとペンを走らせた。流れ出る汗でノートの文字がにじんだ
▼福島県から参加した男性に同行した時の光景が印象に残る。目印一つない山の茂みを、男性は何かに引き寄せられるかのように進む。その先の海が見える崖の近くに家族9人が眠る墓があった。同行者の一人がハーモニカを奏で、一緒に「ふるさと」を歌った
▼5年前の慰霊祭で病を押して参加したのが、前会長の宜野座朝憲さん。那覇空港に着くと同時に救急車で運ばれ、二度とお会いすることができなかった。病床で「来年も行くから」と話していたと聞き、胸が締め付けられた。帰還者会を引っ張っていく情熱にいつも頭が下がった
▼帰国後、取材した方々、現地でお世話になった帰還者会役員の訃報に接するたびに体験者の高齢化を痛感した。同時に壮絶な体験を記録に残す時間が限られていることも
▼ことしは慰霊祭が始まって45年になる。遺族の思いに多くのことを学びたい。「武力行使も辞さず」と勇ましい言葉が飛び交うご時世だからこそ。