<金口木舌> 還暦を迎えたゴジラ


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 還暦を迎えた怪獣が、海の向こうで元気に暴れ回っている。映画「ゴジラ」の誕生から60年。ハリウッド版「GODZILLA」が全米で人気を呼んでいる。「逆上陸」とも呼べる日本公開は7月25日

 ▼1954年のシリーズ第1作は、この年3月のビキニ環礁での水爆実験と第五福竜丸事件に着想を得た。ハリウッド版も東日本大震災や原発事故を思わせる場面を描き、核の恐怖と向き合う姿勢を引き継ぐ
 ▼原爆の記憶は生々しく、核の脅威が日本を覆う中での封切りだった。水爆実験で眠りから覚め、東京を破壊するゴジラは空想劇を超えた迫真性を帯びた
 ▼沖縄での公開はこの年12月。米軍の土地接収による生活不安が広がっていた。映画館でゴジラの都市破壊を見た住民は、現実社会で進む武装米兵の破壊行為を重ねたであろう
 ▼映画の中でゴジラが壊した国会議事堂では目下、集団的自衛権をめぐる論戦が進んでいる。他国攻撃の可能性を論じ、憲法解釈の変更を叫ぶあまり、現実の戦場の姿を置き去りにしてはいないか
 ▼映画は科学技術でゴジラを倒した末、「もし水爆実験が続けて行われるとしたら、あのゴジラの同類がまた世界のどこかに現れてくるかもしれない」というせりふで終わる。この言葉に真実の一端を見いだした60年前の想像力に学ぼう。リアリティーを欠く論議に振り回されずに済む。