<金口木舌>街の素顔


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 コザにまつわる民謡やポップスを収めたCDアルバム「コザの歌」に「KOZA」という作品がある。2006年に亡くなった個性派芸人の我喜屋良光さんが、コザ暮らしの男のはかない恋を歌う

 ▼「コザぬ男ぬする恋や 数打ちゃあたいさ はて乱暴 明日や風ん吹かんしが」。作詞はアルバムを製作したキャンパスレコード代表の備瀬善勝さん。失礼ながら、歌詞カードを眺めていると、幾人か顔が浮かんだ
 ▼やぼを承知で聞いてみた。「特定のモデルはいるの」。返事は「いやいや。僕も含め、コザのシンカ全員だよ」。作詞家は風采の上がらぬ男たちを優しく見つめ、言葉をつづった
 ▼音楽プロデューサー・大木謙次さん作曲の甘くて少しさみしげなメロディーに乗せて、歌詞は街の自画像をなぞっていく。「花ん枯りゆさ コザの街」のくだりに、失恋続きの男のような街の素顔を見る
 ▼明日の風を頼み、地域興しの手を打った。当たれば祝杯、外れれば悔し涙。空を見上げれば「戦ぬ飛行機 ブンブンと」。ちまたに渦巻く悲喜をよそに、爆音が容赦なく響く
 ▼小石につまずき、ぬかるみに足を取られる。金網と向き合い「基地街さよなら 文化ぬ街 夜明やがてぃどぅ 二才達」の意気で杯を交わす。美形ではないが憎めないコザの素顔は、戦後沖縄の一断面である。歩みは厳しい。でも花が咲く日はきっと来る。