<金口木舌>厚化粧の物言い


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 「文章の最も基本的な機能は伝達である」。作家の丸谷才一さんは「文章読本」で書く。どんなに美辞麗句を並べ歯切れが良くても、筆者の伝えたいことが誤解される文章なら駄文にも値しない、と

 ▼その例として大日本帝国憲法と現憲法を比較する。明治憲法は「荘厳にしてチンプンカンプン、勿体(もったい)ぶつてゐて曖昧模糊(もこ)」で、明晰(めいせき)さを度外視した劣弱な文章だという。風呂に数年入らず、おしろいを塗りたくった醜悪さとも
 ▼例えば、19~30条まで保留付きで臣民の権利を保障しているのに、緊急勅令や戒厳令といった他の条項で根こそぎ奪い取る。つじつまが合わず、文章論からすると「混乱と支離滅裂」と断じる
 ▼一方の現憲法。下手な翻訳調で名文とは言えないものの、誤解の余地がなく論理的で「明治憲法にくらべてずつと上等。曲りなりにも伝達といふ役目を果してゐる」。少なくとも時たま風呂に入っていると
 ▼その明確な意味を持つ憲法を、安倍政権は解釈変更で裏道から壊しにかかった。閣議決定した武力行使3要件は「明白な危険」「必要最小限度」など幾らでも拡大解釈ができる悪文だ。集団的自衛権とは他国の戦争への参加なのに、首相は「戦争に巻き込まれる恐れは一層なくなる」と豪語した
 ▼伝達と論理を厚化粧で覆い隠す魂胆を、丸谷さんなら「風呂に入ってこい」と叱り飛ばすかもしれない。