<金口木舌> 小さな声


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 雨の降り始めた7日から9日夜にかけ、県内最多の雨量450ミリを観測した名護市。台風8号は市街地でも木々をなぎ倒し、沿道の小さな花々も吹き飛ばした

 ▼台風一過、商店街周辺で毎朝、沿道の花の苗を手入れする姿がある。市商工会の金城哲成会長は語り掛けるように花々と接する。花がしゃべることはないが、満開で感謝を表すだろう
 ▼こちらもしゃべりはしないが、自らの存在を食跡で示す生き物がいる。絶滅危惧種のジュゴンだ。日本自然保護協会は先ごろ、名護市辺野古の新基地建設予定地で合計110本以上の食跡確認を発表した
 ▼大浦湾沖合に出ると、船上からでもその澄み切った色、目に飛び込むサンゴ礁などに一目ぼれするほど。豊かな海を壊すことが沖縄の将来をどう左右するのか。食跡は、日米両政府や県へ事の重大さを気付かせる海の生き物たちの声ではないか
 ▼陸地でも埋め立てへの抵抗は続く。キャンプ・シュワブ前で毎朝抗議集会を開く市民団体や辺野古漁港で座り込む人々だけではない。地元辺野古集落でも反対の声はくすぶる。「目の前に基地ができたら引っ越さざるを得ない」「子どもらに住み続けてとは言えない」。住環境の変化への動揺と苦悩は大きい
 ▼声なき声は小さな存在かもしれない。でも、無視していいはずがない。小さな声にも耳を傾け、向き合える社会でありたい。