<金口木舌>延長のドラマより…


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 1999年春、センバツ甲子園準決勝の日はある講演会を取材する予定だった。ところが延長戦になり、開演時間を過ぎても参加者が会場ロビーのテレビから動かない。県外から招かれた講師が「沖縄の野球熱に負けました」と苦笑していた

▼1点に泣き笑い、ピンチで息詰まり、サヨナラのチャンスに胸が高鳴る。延長戦のドラマは見る者を熱狂と興奮に引きずり込む。一度負ければ後がない高校野球はなおさらだ
▼そんなドキドキ感を味わえるのはことしが最後かもしれない。日本高野連は選手の健康管理を目的に、延長戦は塁上に走者を置いて始める「タイブレーク」導入を議論する
▼古くは松山商と三沢、最近ならPL学園と横浜、駒大苫小牧と早稲田実業など延長戦の名勝負は多い。気になるのはどの試合もエース一人が投げ抜いたことだ。炎天下の連戦、投手の負担を考えると高野連の方針も納得できる
▼こうした動きに応え、大リーグ、レンジャーズのダルビッシュ有投手はツイッターで「1年5回2年6回3年7回」と投球回数制限やベンチ入り人数を増やすなどの持論を披露した
▼名勝負を期待するのもいいが、原点は選手の競技者生命を守ること。指導者にはエースに頼らないチームづくりが求められる。見る側も情緒的に「ドラマが失われる」と嘆くより球児の健康管理を共に考えるきっかけにしたい。