<金口木舌>沖縄角力の生きる土地


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 幼いころ村祭りで見た光景が横浜市鶴見区でよみがえった。沖縄出身者が70年以上続ける「おきつる角力大会」だ。汗を散らして技をかけ合い、体重70キロの小柄な力士が110キロを投げ飛ばした

 ▼沖縄口(うちなーぐち)では「シマ」と言う。右四つに組んでから勝負が始まる。相手の両肩を地面に着けるまで勝負は決まらない。横倒しにされても逆転を狙う。柔道の技やレスリングのスピード感のような興趣が加わる
 ▼力自慢の競い合いも廃れた村は多い。本土でも川崎や大阪などは30年以上前になくなった。鶴見も出場者が減って存続の危機にあったが、モンゴル勢の出場で息を吹き返し、沖縄からも参戦する
 ▼今年は久米島勢がベスト4を独占。観客席からは沖縄口の声援と指笛が飛んだ。「力任せの押し相撲では駄目。技の見事さが沖縄角力では一番大事だ」と県人。大きな者が勝つとは限らない。多彩な技を持つ者が有利だ。倒されてもまだ勝機はある。沖縄人(うちなーんちゅ)の心意気を示しているといえば言い過ぎか
 ▼本紙連載の「道標求めて」で痛快なのは大国の間で生きる小国琉球の知恵の数々だ。列強との交渉に当たっては架空の役職を設けて時間を稼ぎ、首脳は最善の対応策を見いだした
 ▼その知恵が角力に生きているとみるのはどうだろう。そして文化は海を越え遠く鶴見に残った。沖縄人のDNAが深く強いことを教えられた気がする。