<金口木舌>時代の映し鏡


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 写真家の篠山紀信さんが写真の力についてこう語った。「見た瞬間、その時代を思い出す。当時自分が何をしていたのかもぱっと浮かぶ。記憶を呼び起こす力じゃないかな」。県立博物館・美術館で開催中の「篠山紀信展 写真力」でその言葉を思い出した

▼1950年代後半に活動を始め、現在も第一線を走り続ける。歌手の山口百恵らを撮った「激写」は流行語になった。アイドルの撮影ではかわいいだけではない内面をのぞかせた。女優・宮沢りえさんのヌード写真集で世間をあっと言わせたのも鮮烈な記憶だ
▼常に新しい技法や表現にこだわり、時代を焼き付けてきた人だ。取材の時、傍らの撮影担当者に「ばぁ」という顔をして、「ほら、今の瞬間を撮るんだよ」と言う。サービス精神旺盛なところも見せた
▼印象的だったのは東日本大震災の50日後に被災地で撮った女性の写真だ。カメラの前でレンズをじっと見てくださいと言って2、3枚撮ったという
▼「ここに来てとか、元気な顔をしてとか、ポーズをつけるとかは一切していない」。何かを訴えるような、しかし言葉がまとまらないような表情が悲しみや戸惑い、憤りの深さを物語る
▼写真は時代の映し鏡だ。新聞に使われる写真も沖縄の今を映し出す。もとより巨匠には及ばないが、読者の記憶に残り、記憶を呼び覚ますような鏡の力を持ちたい。