<金口木舌> 広島とアオギリ


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 沖縄戦の激戦地南風原町の黄金森近くに、戦争の記憶を刻む樹木がある。広島市で被爆の惨禍を生き抜き、再び芽吹いたアオギリの「2世」だ

 ▼広島市で被爆し、戦後、語り部として活動した故沼田鈴子さんが約20年前、広島から南風原文化センターに贈った苗が成長した。左足を失った沼田さんは、アオギリに生きる勇気をもらった。生前は全国行脚して被爆体験を語り、平和運動に情熱を注いだ。沖縄愛楽園の戦争体験者らとも心を通わせ、親交を深めた
 ▼被爆から69年の広島原爆の日の式典。印象的だったのは、松井一実市長が平和宣言で集団的自衛権行使容認の閣議決定に言及しなかった点だ。69年間戦争をしなかった事実を重く受け止める必要があるとだけ指摘した
 ▼閣議決定の撤回を求める被爆者の声の代弁を避けた。被爆地の首長の発言力は大きい。平和宣言は、あえて地雷を踏まないようにしたように見える。物言わぬ態度は、権力側に都合良く解釈される危うさがある。容認も同然だと
 ▼「勇気をあつめちかいます あらそいのない国 平和の灯」「遠いむかしのできごとを わすれずに思う」。広島の歌に制定された「アオギリのうた」は武力に頼らない平和を誓う
 ▼空に向かって葉を広げるアオギリを見て思う。戦争の記憶が薄れつつある国の姿を、天国の沼田さんはどう見ているだろうか。