<金口木舌>「金星」狙いの独り相撲


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 囲碁の世界で間違った手を打つことを「失着」と呼ぶ。棋士にとっては忌むべき言葉に違いない。緊迫した局面での「失着」は命取りとなる。わずか一手で雌雄が決するところに囲碁の怖さと醍醐味(だいごみ)がある

 ▼物語の筋書きに一貫性がなく、矛盾が露呈した小説には「破綻」の烙印(らくいん)が押される。物書きの技量を厳しく問う言葉である。呻吟(しんぎん)の末、幾十枚も書き連ねた原稿用紙も、この二文字の前では急速に力を失ってしまう
 ▼「金星」は若き力士の殊勲となる。平幕力士が横綱をごろんと土俵上に転がし、座布団が華々しく舞う。いつ見ても爽快な光景だ。横綱の不覚と優勝争いをめぐる波乱は大相撲を大いに盛り上げる
 ▼政治家にとって「公約破り」は命取りのはずだが、最近は様相が変わったのか。妙な開き直りと弁明で済ます風潮がまかり通っている。政治家の物忘れを有権者は見逃すわけにはいかない。今年は選挙の年
 ▼オスプレイの佐賀空港暫定移駐を早々と引っ込めた防衛省にはいかなる言葉をぶつけようか。「失着」というには熟考の跡が見えぬ。米国相手に四股を踏む前にあっさり転がった政府のふがいなさには、ため息が出る
 ▼そもそも抑止力論に一貫性がなく、にわかづくりの移駐の筋書きは「破綻」していた。沖縄の負担軽減で「金星」が欲しかったか。県民無視の「独り相撲」には付き合えぬ。