<金口木舌>祈るように語り掛ける


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 母は双子の赤ちゃんに語り掛けた。「あなたたちがまだ1ミリにも満たない受精卵と呼ばれるタマゴだった時から、どんなふうに『こんにちわ』って言おうかしら?と祈るような気持ちで考えていたんですよ」

 ▼タレントの向井亜紀さんの記す言葉からは、誕生を待ち焦がれる親の気持ちが伝わってくる。向井さんは夫との受精卵を米国人女性に移植して出産してもらう代理出産で双子に恵まれた
 ▼最初の子を妊娠した際にがんが見つかり、子宮を摘出した。それでも子どもが欲しいとの願いが代理出産を選ばせた。日本では原則禁止。批判もある中、米国に渡って3度目で子を授かった。そしてその経緯も公表してきた
 ▼生殖医療は子を持つ喜びをもたらす。その一方で、不思議な出来事が生まれることも。タイでは代理出産で生まれた十数人の赤ちゃんが見つかった。若い日本人男性が出産費用や養育費を出しているという
 ▼「何のために」「赤ちゃんの今後は」。多くのことが今後明らかになるだろうが、子どもの養育には何よりも愛情が必要だということは言をまたない
 ▼「科学は一つの問題を解決するのに、いつも十の問題を新たに作りだす」とは英国の劇作家バーナード・ショーの言葉。タイの件も科学の進歩が生み出した新たな問題だろう。命に向かって祈るように語り掛ける慎み深さがこと生殖医療には必要だ。