<金口木舌>「松山王子、事件ですよ」


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 テレビ番組のタイトルを拝借すれば「松山王子、事件ですよ」といったところか。松山王子とは最後の琉球王・尚泰の四男、尚順男爵のこと。お耳に入れたい事件とは島豆腐を脅かす一大事

▼県民食の誉れ高い島豆腐の消費量と製造業者が3年連続で減っているという沖縄総合事務局のお触れがあった。存命ならば男爵もさぞかし嘆いたであろう。島豆腐といえばチャンプルーの主役ではないか
▼博識かつ食通で知られた尚順は1938年の随筆「豆腐の礼讃」で、安価で入手しやすい豆腐を「真の美味珍味」とたたえた。豆腐好きが「トーファー」とあだ名で冷やかされたという逸話が楽しい
▼礼讃とまでは言わずとも、島豆腐は「おいしくて、健康に良い沖縄の伝統食」という売り文句は、おおむね賛同が得られよう。ところが日本本土の豆腐の約3倍という大柄なずうたいが現代の食生活には合わぬらしい
▼こんな時こそ居酒屋の人気の一品「スクガラス豆腐」を考案したという食通男爵にご指南を願いたい。味さえ良ければ琉球料理にバターやベーコンを用いた柔軟さで妙案を編み出すに違いない
▼真珠湾攻撃で日本中が沸いている時も「英米と戦って勝てるはずがない」と看破した尚順は、その眼力で沖縄の食文化の将来をどう見通しただろうか。想像を巡らせながら、今夜はあちこーこーの島豆腐を味わいたい。