<金口木舌>予備校、冬の時代


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 日本武道館に初めて入ったのは予備校の入学式だった。巨大な空間もさることながら、そこを埋めた1万人の浪人生の数にも圧倒された。代々木ゼミナールに筆者が通っていた30年前の光景だ

▼その“母校”が地方の20校を閉鎖し、全国模試もやめると聞いて驚いた。「講師の代ゼミ」の定評で、人気講師を数多く抱えていた。300人の大教室の前の席を取るため、朝6時から行列ができるのは代々木駅前の名物だった
▼1浪を「ひとなみ」(人並み)と称していたのも今は昔。1990年代初めに20万人いた浪人生は、少子化の波を受けて今や8万人にまで激減した。長い景気低迷も重なって現役志向が強まり、大学入学者に占める浪人生の割合も1割しかない
▼18歳人口は92年の205万人をピークに下降線を描く。一方で新設大学が増え、志願者数よりも入学定員が上回る「大学全入時代」を迎えている。今春は私大の46%が定員割れだった。予備校ばかりか大学も存続が厳しいご時世だ。入りやすくなった半面、学生の学力低下も指摘される
▼大手予備校の衰退は、少子化が産業に影響を及ぼした象徴的な事例と言えようか。大学も予備校も淘(とう)汰(た)が始まっている
▼出生数が減り続けことしは年間100万人割れの可能性も出てきた。この難問にどう向き合い取り組むのか、政治も社会も「傾向と対策」が必要な時代だ。