<金口木舌> 新旧の生気と芸能の島おこし


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 巨額の予算が伴う事業でもない。「お金の喜びはないけどね」。うるま市伊計島で老人クラブ会長を務める吉岡強さん(72)は島に生きる幸せを満喫しているよう。笑顔は屈託ない

 ▼黄金イモなどの畑の向こうに海が広がる旧伊計小中学校。2012年に閉校した、かつての学びやを中心にアートによる島おこしが進行中だ。「イチハナリアートプロジェクト」と題した芸術展には、ことしも若手作家らが渾身(こんしん)の作品を出展した
 ▼そんな一角に吉岡さんの作品も並ぶ。「もう目も見えなくなってきて、歯もないし…。最後のチャンスだと思ってね」。若手作家に刺激を受け「ニライカナイ」をテーマに貝殻やサンゴで人魚を思わせるオブジェを仕上げた
 ▼原風景と廃校。島にある資源だけで島を再生させる。開発による直接の資本投下と違い、簡単には成果が目に見えにくい島おこしではある。しかし「伊計島ファン」は着実に増えている
 ▼若手作家の樺島優子さん(宮崎県)は布を合わせてヤドカリのオブジェを制作した。「昔ならではの風景がある伊計は大好き。沖縄に来たという感がある」。芸術展を機に、島にすっかりなじんだ
 ▼「島の美しい自然の景観は人の心を豊かに、幸せにする」と吉岡さん。芸術展ではそんな島の特色とアート、新旧の生気が共鳴する。徐々にではあるが、前に進む人々の営みを見守りたい。