<金口木舌>最多殺人の動物


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 男が笛を吹くと子どもたちが次々と家から出てきて男の後をついていった-。グリム童話「ハーメルンの笛吹き男」は子どもが列を成す挿絵が記憶に残る

 ▼沖縄でも1970年代まで似た光景があった。「ガジャンクルサー」だ。殺虫剤散布車のことで、各集落を回っていた。ブーという音が聞こえると、家々から子どもたちが飛び出し、軽トラックが吐く白い煙を追い掛けた。歓声を上げたり忍者ごっこをしたり。危ないと叱られたものの、夏の夕暮れの風物詩だった。姿を消して久しい
 ▼東京の代々木公園で蚊を駆除する映像を見て思い出した。デング熱の国内感染が70年ぶりに確認されて8日。感染者は59人、全国に広がった。媒介したのはヒトスジシマカというヤブ蚊
 ▼マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏はブログで「人間を最も多く殺す動物」を紹介している。1位が蚊。年間72万5千人を死に至らしめ、2位の人間(47万5千人)、3位のヘビ(5万人)を大きく引き離した
 ▼蚊が媒介する感染症の最たるものはマラリアだ。年間2億人が発症し60万人の命を奪う。デング熱も1億人が発症し、死亡例もある。日本脳炎、黄熱病も怖い
 ▼温暖化と往来の増加で、熱帯の感染症が地球規模で広がる時代。亜熱帯の沖縄も警戒を怠ってはいられない。関係機関が笛を吹けば、しっかり踊って万全な対策を取りたい。