<金口木舌>自分にとって必要な物


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 両親の引っ越しで驚いたのが物の多さだった。かつての子ども部屋は物置と化し、家具や客用の食器や古着がぎっしり。「いつかは使う」と言ったり、思い出を語り出したりで、整理は遅々として進まない

▼今や「親の家の片付け」が新聞や雑誌で特集される。物のない時代に育ったが故の「もったいない」。家族の思い出があって捨てられない気持ちも分からなくはない。しかし使わない物をあふれるほど持つ生活とは何だろう
▼フィンランド映画「365日のシンプルライフ」は人と物の関係を問う。26歳の青年ペトリは失恋を機に物であふれ返った部屋にうんざりする。全てを倉庫に預け、1日に一つだけを持ち帰り1年間何も買わないという実験を始める
▼初日に全裸で倉庫に走って向かい、持ってきたのはコートだった。毎日一つを選ぶたびに「これは自分にとって必要か」と考える。監督・脚本・主演のペトリ・ルーッカイネンの実体験だ
▼印象的なのは単なる窮乏生活ではないこと。ペトリによれば生活に必要な物は100個、生活を豊かにする物が100個。釣り道具は新しい彼女と楽しむために取り出す
▼ペトリは「物を消費することによって自分を表現する」世代と言う。だが、限りある資源を考えれば今の消費文化が続くとは思えない。「これは自分に必要な物か」。誰にとっても必要な問い掛けだ。