<金口木舌> 「かつ江さん」はどこへ


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 南城市の地形に似せた逆ハート形の口と麦わら帽子が愛くるしい。市の“顔”を務めるゆるキャラ「なんじぃ」は飲料水のイラストにも採用されるなど活躍している

 ▼愛されるゆるキャラがいる一方で、鳥取市教育委員会が7月に公開した籠城戦マスコットキャラクター「かつ江さん」は不遇な運命をたどった。「飢餓をちゃかしている」との批判もあり、公開からわずか4日目に姿を消した
 ▼戦国時代の羽柴(豊臣)秀吉の鳥取城攻めで多くの庶民が飢えて犠牲になった「鳥取の飢(かつ)え殺し」がモチーフ。市教委は鳥取城跡の歴史を知ってほしいと、戦いに巻き込まれた庶民の姿を「かつ江さん」に投影させた
 ▼頬はこけ、手にはカエルをぶら下げる姿を不快とする人も。同じ名前の人への配慮も必要だったかもしれない。だが、公開終了を「表現の自由」の視点で考えると引っ掛かる
 ▼「かつ江さん」に賛否両論ある中での市教委の対応は批判に過剰反応したように見える。評判だけを意識し過ぎると、当たり障りのない表現になりがちだ
 ▼東京電力福島第1原発事故による放射性物質と健康被害を関連付けるような漫画「美味しんぼ」の描写が議論となり、出版社は表現の在り方を見直す見解を示した。白か黒かと単純化できない領域を受け入れる寛容さが失われることは、誰にとって不幸なのかを考えたい。