<金口木舌>沖縄の風貌


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 額は広く、顔は楕(だ)円形。表情は穏やかで愛想が良い。160年前、ペリー提督が見た琉球人の風貌である。「ペリー提督日本遠征記」の一節。「鼻は総じて格好良い」とは甘口の評価だ

 ▼女性に対する採点は少々辛い。「ひどく角張った顔をして、鼻は男性より平べったい」という描写は不興を買おう。それでも男性が「奴隷や家畜」のように女性を軽んじる風潮を提督は見逃さなかった
 ▼沖縄では、顎骨の張った人をハブの頭部に例えてハブカクジャーと呼ぶ。国立国語研究所の「沖縄語辞典」は「意志強く、強情で闘争的だとされる」との解説を添えた。確かに鼻っ柱が強くて、手ごわそう
 ▼近現代史を貫く沖縄差別を描いた知念正真さんの戯曲「人類館」にハブカクジャーの男が登場する。「琉球の土民」として陳列された男の顔は怒りでゆがんでいよう。それは幾多の苦難を耐えてきた沖縄の風貌ともいえる
 ▼現実の社会はどうか。辺野古沖で横行する暴力に怒りが込み上げ、許し難い不条理に思わず顔がゆがむ。いまは踏ん張りどころ。ハブカクジャー譲りの強い信念を貫きたい
 ▼知事選の候補者がそろった。重い選択が近づくにつれ、県民の顔は険しくなろう。これも避け難い苦難か。ペリー来訪の激震を見た祖先の素顔を想像しつつ、歴史の荒波にもまれ、深い陰影を刻んだ沖縄の風貌の意味を考える。