<金口木舌>富を分かち合う発想は


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 他社の若い記者の問い掛けに対する答えを何カ月も探しあぐねている。「衰退する地方や過疎地をなぜ税金を使って救わなくてはいけないのか」

 ▼その記者も地方出身。生まれ育った町は市町村合併され、郷里の名は消えた。数年間を支局で勤務し「地域おこし」をテーマにした記事を何本も書いた。地域を残そうと頑張っている人たちの気持ちは「分かる」とも
 ▼「でも」と彼は言う。利用者の少ない山間道を建設し、「町おこし」と銘打ったイベントに金を出し、零細農家に補助金を出す。人口減少は目に見えているのに、金を投じるのは「無駄ではないか」と
 ▼過疎地にも人の暮らしがある。生活を合理性だけで計ることはできない。地方の人口が消滅すれば、都市への人口流入がなくなり、いずれ都市も衰退する。その反論も、決定的な答えではない
 ▼日本経済が先細りすると、若者は仕事がないか、あっても将来が見えない羽目に陥る。「税金は恩恵を受ける人が多い所に投入すべきだ」という考えの裏には、若者が社会から受ける恩恵は少ないと感じるいら立ちもあろう
 ▼長くもてはやされた「合理化」や「効率化」という言葉が、多数派がひたすら利を得る「弱肉強食化」でしかないとしたらつらい。皆で富を分かち合う発想は、この国から消えるのか。重い問い掛けに、そろそろ答えを出さなくてはならない。