<金口木舌>老舗の締めくくりに


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 沖縄三越が閉店した21日夜、国際通りを歩いた。土産店はまばゆい光を放ち、民謡やポップスが方々から聞こえる。観光客はのんびりと歩く。いつもの風景が県庁前交差点から安里まで続く

▼初めて見る店が多い。通りの新陳代謝が加速している。老舗の飲食店を目にすると安堵(あんど)し「頑張れ」と声を掛けたくなる。五十路を前にくたびれ気味のわが身にはね返ってくるようで気が引けるが
▼交通渋滞は相変わらず。芸術家の岡本太郎が1960年のエッセーで「牛のヨダレのように、のびたり、ちぢんだり」と描写した国際通りの車列は時代を超えて健在だ
▼三越前の人だかりには驚いた。閉店時間の午後7時をすぎても数百人の買い物客が玄関を取り囲んでいた。皆、押し黙っている。名残惜しいのだろう。シャッターが下りるころ「ありがとう」の掛け声が飛んだ
▼「奇跡の1マイル」を牽引(けんいん)した。流行の風を織り交ぜ、おしゃれで豊かな暮らしを送り届けた。なじみ客と共に歩み、夢を育んできた57年だった。愛惜がこもった幾通りもの感謝の言葉がこだました
▼国際通りの顔が消えた。再開発が進み、街の姿は変化を遂げるだろう。それでも灰燼(かいじん)から立ち上がり、戦後復興を成し遂げた心意気は不変であってほしい。そう願い、幼いころ三越のレストランに憧れた中年男は、老舗の締めくくりに「ありがとう」と頭(こうべ)を垂れる。