<金口木舌> かけがえのない命


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 40万人以上を動員しているドキュメンタリー映画「うまれる」は、4組の家族の物語を通して命を見詰める。映画に込められているのは、一人一人が掛け替えのない存在というメッセージ

 ▼親からの虐待が心の傷になり、出産に戸惑う女性や出産予定日に赤ちゃんを失う夫婦、子どものいない人生を歩む夫婦、障がい児を育てる家族。命と向き合う姿に生きることの意味、家族の絆を考えさせられる
 ▼ことし1月から6月にかけて、全国の警察が虐待の疑いで児童相談所に通告した子どもの数は過去最多の1万3037人に上った。昨年同期に比べ29・6%も急増している
 ▼厚労省の調査では2012年度に虐待で命を奪われた子どもは90人。心中以外の虐待死では、親の保護が最も必要な0歳児が4割を占めた。加害者の7割が母親で、多くは母子手帳もなく、妊婦健診を受けていない。過半は望まない妊娠だった
 ▼県内の産婦人科医からは健診未受診の妊婦を早めに把握し、胎児期からの関与が必要との声が根強い。医療関係者や福祉関係者が相談に乗り、出産前から子育てを支援する体制づくりが望まれる
 ▼健やかな育ちが保障されない子どもが増えている現実に無関心であってはならない。「銀(しろがね)も金(くがね)も玉も何せむに勝れる宝子にしかめやも」。万葉歌人の山上憶良は子どもを金銀、宝石に勝る宝物と詠んだ。