<金口木舌>地味な男の大仕事


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 米大リーグ、アスレチックスは貧乏球団だが、なぜ強い? そんな謎に迫ったノンフィクション「マネー・ボール」は、従来の野球観を打ち破った

 ▼この本で広く知られたセイバーメトリクスは偶然を排し、統計学で選手の実力を測る手法だ。強肩、強打、俊足と分かりやすい選手を推す古株スカウトと衝突するが、統計学で選んだ年俸の安い「一流半」の選手でチームは勝ち進む
 ▼「マネー・ボール」に倣いセイバーメトリクスの手法で、ある投手の実力を測った。1イニングで打たれる安打は0・87、四死球も含め走者を出す確率は0・91、被本塁打は0・05。要するにほとんど打たれない。推定年俸2800万円ながら働きは一流といえる
 ▼この成績は県出身で34試合連続無失点のパ・リーグ記録に並んだオリックス比嘉幹貴投手が1軍に定着した最近2年間のもの。同じチームの抑えのエース平野佳寿投手とほぼ同じだ
 ▼残念なことに記録は途切れたが、比嘉投手が球史に名を残したことを県民として誇りたい。低迷が続いたチームを、優勝争いするまで支えた縁の下の力持ちとして貢献したことも
 ▼先発や抑えの切り札のような華はないが、地味な中継ぎでも大仕事はできる。「あの人がいなければ…」。そんなふうに目立たなくとも必要とされる人はどの世界にもいる。比嘉投手の活躍は多くの人に力を与えてくれた。