「おじさんは売国奴ですか」。男子高校生から問われて、元県議の瑞慶覧長方さんは耳を疑った。昨年夏、県庁近くでのこと。首相を風刺する琉歌のプラカードを持って歩いていたら、3人は屈託なく聞いてきた
▼69年前、13歳の瑞慶覧少年は同じ言葉を摩文仁で聞いた。沖縄戦終盤の6月20日、投降しかけた沖縄の男性に、岩陰から出てきた日本兵が「売国奴っ、スパイ野郎っ」と叫んで日本刀で斬り付けた。生きた人の首をはねるという惨劇を目撃し、震えが止まらなかった
▼最近、書店に「嫌韓」「嫌中」という本が目立つ。雑誌にも隣国をさげすむ不快な見出しが躍る。全国的に売れているというから背筋が寒くなる。他国を侮辱し敵意をあおる排外主義であり、戦前の「鬼畜米英」を見るようだ
▼当時、国策への異論に対しては政府もメディアも国民も「売国奴」「国賊」のレッテルを貼って封殺した。その差別用語が息を吹き返し、昨年の「建白書」東京要請団にも、先月の朝日新聞の誤報問題でも浴びせられた
▼軍国少年だった瑞慶覧少年は、収容後にけがを治療する米兵を見て「鬼畜」の言葉にだまされたことを知った。「真実を知らず、洗脳されていた」
▼ネットを含め、偏狭で攻撃的な言葉が世に漂う。この国は歴史から何を学んだのか。今こそ、冷静で柔軟な思考と、多様な価値観を認め合う寛容さが必要だ。