<金口木舌>食文化が守られた日


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 東京暮らしだった学生時代、無性に欲しくなる古里の味があった。沖縄そばだ。帰省すると、すぐ旧空港ビルの食堂に駆け込んだ

▼食通で知られる元毎日新聞記者の古波蔵保好さんも同じ思いをしたようだ。戦前の東京で故郷のそばが恋しく、いつも香りを思い出していたと、著書「ステーキの焼き加減」に記している。「故郷へ帰るということは、なつかしいそばを食べにいくことであった」。郷愁の味は時代を問わない
▼きょうは沖縄そばの日。そば粉を使わないのに「そば」と名乗っていることに1976年、公正取引委員会から物言いがついた。沖縄生麺協同組合の粘り腰の交渉の末、認められたのが78年10月17日だ
▼思えば、島豆腐も消滅のピンチに遭ったことがある。日本復帰と同時に食品衛生法が適用され、旧厚生省から冷やして売るようにとの通達が来た。島豆腐はあちこーこーが常識。こちらも業界の柔らかな抵抗と要請が功を奏し、75年に特例として認められた
▼何でも画一化、規格統一したがる国の手法は通用しなくなり、今や地域の個性が尊重される時代。沖縄そばは1日20万食が消費される県民食となり、観光客にも人気だ。移民先の南米でも定着している
▼全国一律という荒波に立ち向かい、独自の食文化を守ってくれた先達の労苦に感謝と敬意を払いながら、きょうは1杯味わうとしよう。