<金口木舌>いつか自然に帰る


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 「栄華を極めたソロモンでさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった」。絶大な権力を持ち、容姿端麗で知られたイスラエルのソロモン王も自然界の美しさにはかなわない。新約聖書の一節は人間のおごりを戒める

 ▼アラスカの自然に魅せられ、移住した写真家の故星野道夫さんは数々の名言を残した。「壮大なアラスカの自然は、結局人間もその秩序の中にいつか帰ってゆくという、あたり前のことを語りかけてくる」。日ごろ意識しない感覚を呼び覚ましてくれる言葉だ
 ▼ドイツ人でデザイナーのヨーガン・レールさんが9月下旬、石垣市で急逝した。1971年に来日し、ファッションブランド「ヨーガンレール」を設立した。天然素材や手仕事にこだわり、日本の自然染料を多用する衣服を作り上げた
 ▼石垣市にも住まいを構えた。貝殻を素材に首飾りを作ったり、窓ガラスを再利用してコップを作ったりと、自然と向き合う暮らしは創作に反映された
 ▼翻って、沖縄はどうか。護岸工事で自然海岸は減っている。本島北部の山々を縫うように道路が造られ、トンネルが掘られている。足元の自然に目を向けるとがくぜんとする
 ▼自然への尊敬の念を抱き、環境を汚さず、土に返る素材へのこだわりがヨーガンさんの創作の原点だ。惜しまれて亡くなったヨーガンさんから宿題をもらったような気がする。