<金口木舌>日本人の証


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「われわれは日本人ではない。ウチナーンチュじゃないか」と読者から電話で詰問されたのは1カ月前のこと。現代沖縄人のDNAは日本本土に近いという研究成果を紹介する記事への疑問だった

▼科学的分析を踏まえた結果だと説明しても納得してくれない。「顔付きが違う。歴史も違う。ヤマトに痛めつけられてきたんだぞ」と反論が続き、話はいつしか「琉球処分」を経て辺野古の問題にまで至った
▼さまざまな形で「日琉同祖」が語られてきた。「日本人とは異なる」沖縄人像も描かれ続ける。日本本土との複雑な関係ゆえ「沖縄人とは何者か」という問い掛けはやまない
▼自己決定権、独立を議題とする集会が盛んだ。11月の政治決戦も意識してのことだろう。歴史の局面を迎え、今また「沖縄人とは何者か」という命題が鋭く問われている
▼ある集会で、論者の一人がDNA研究に触れ「証拠を出さないと日本人になり切れない」という沖縄人の微妙な心理を指摘した。証拠がなければ日本人になれないこと自体、沖縄人は異質な存在である証しである
▼「日琉同祖論」を説いた伊波普猷が著書「沖縄歴史物語」で「われわれは歴史によっておしつぶされている」という言葉を掲げた。「ウチナーンチュじゃないか」という電話での詰問は「沖縄はつぶされてはならない」という切実な訴えだったと解釈したい。