<金口木舌>一字違いが大違い


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 手書きで記事を書いていたころのこと。記者がある立候補者の第一声を「福祉を重視し」と書いた。記事を入力する担当者はそのなぐり書き原稿の「重」を「無」と読み違えてしまった

▼誤りに気付き、刷り直したが「福祉を無視し」となった数万部の夕刊は無駄になった。今思い出しても冷や汗が出る。たった1文字で正反対の意味になる。そこが日本語の難しさであり、面白さでもある
▼1文字で心の持ちようも変わる。東京の夜、大工哲弘さんのライブでつくづくそう思った。おなじみの「沖縄を返せ」を大工さんは「沖縄“へ”返せ」と歌う。いとも軽やかに方向が逆を向く
▼復帰運動で盛んに歌われたこの曲が再び響き始めたのは1995年の少女乱暴事件からだ。復帰後も米軍基地は残り、不平等な地位協定によって罪を犯した米兵の身柄確保もままならない。沖縄に主権は戻ってこなかった
▼県民のやるせない気持ち、真の復帰を求める願いがこの曲をリバイバルさせた理由かもしれない。そして今も辺野古の浜で、基地のゲート前で、県庁を囲んで歌われる
▼「沖縄を返せ~、沖縄へ返せ~」。大工さんの歌声に力みはない。スコットランドの住民投票を思い合わせて口ずさむ。「沖縄が沖縄へ返る」とは、自分たちの地域のことは自分たちで決められるということ。この歌が過去形になるのはいつの日か。