<金口木舌>「軽薄短小」のいま


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 「また薄くなったね」と言えば頭部の生え際を気にするご同輩もいようか。ここは米アップル社の「iPad(アイパッド)エア2」の話である。厚さわずか6・1ミリ。電器店で触れてみた。「軽薄短小」の最先端がここにある

 ▼石油危機後の1980年代、省エネ技術が「軽薄短小」の商品を生んだ。資源をつぎ込む「重厚長大」型生産の対極にある。IT機器の「軽く薄く」は新商品で購買意欲をあおる戦略といえそう
 ▼出版界の「軽薄短小」は100年前にさかのぼる。1914年、新潮文庫が誕生した。あんパン1個2銭の時代に1冊25-30銭といえば廉価とはいえぬが、文芸作品の大衆化には貢献した
 ▼27年には岩波文庫の刊行が始まる。巻末の「読書子に寄す」で、創業者の岩波茂雄は全集本を押し付ける商法を批判し「携帯に便」「価格の低き」を打ち出した。「重厚長大」への対抗心を見る
 ▼「軽薄短小」は80年代の世相を評するキーワードとなった。沖縄を舞台とした作品がある椎名誠さんらがつづる軽妙なエッセーを「昭和軽薄体」と呼んだのもそのころ。時代の空気を軽やかに切り取る批評精神が読者をつかんだ
 ▼軽薄ぶりでいえば観劇会やうちわが引き金となった安倍内閣の閣僚辞任劇に勝るものはない。SMバー騒動もしかり。「また薄くなったね」の皮肉をぶつけようにも、むなしさは募るばかりだ。