<金口木舌>異形の神の力


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 ある年の旧盆。村人が酒を酌み交わし歌い、豊年祭りを楽しんでいた。そこにマゾムヌという目に見えない妖怪が紛れ込み、祭りの後に疫病をはやらせた。このままでは集落が全滅してしまうと考えた村人は黒い仮面神「パーントゥ」を登場させた

▼宮古島市上野野原に伝わる「サティパロウ(里払い)」の由来だ。異形の神が病よけや厄払いをする伝統行事は世界各地にある。人々がいかに疫病におびえていたかが分かる。その恐怖は形を変えてたびたび現れる
▼感染症という妖怪の前に罪なき人々が放り出された悲しい出来事が沖縄にはある。1945年6月、日本軍は米軍の先島上陸を予想し、住民に移動命令を出した。移動先は県が全てマラリア有病地と認定した地域だった
▼マラリアできょうだい3人を亡くした上原好子さん(79)が本紙9月28日の「未来に伝える沖縄戦」で語っている。けいれんを起こし高熱を出す兄や姉。食料も薬品も乏しい中、3千人余が犠牲になった
▼西アフリカで猛威をふるう感染症エボラ出血熱の封じ込めが国際的な緊急課題となっている。感染者は1万人を超え、米国では医療関係者の罹患(りかん)も続く
▼羽田空港で感染が疑われた男性は幸い陰性だった。発熱を知った段階で特定感染症指定医療機関に運んだ対応は素早かった。目に見えない妖怪を水際で見つけることが一番の病よけになる。