<金口木舌>揺らぐ老後の安心


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 聖路加国際病院名誉院長の日野原重明さんは、手帳に10年先の予定を書き込んでいる。103歳を迎えた今も時々、病棟で診察し、講演依頼があれば国内外へ赴く。円熟した人格や年の重ね方は、理想的な高齢者像だ

▼厚労省は10月、健康な状態で過ごせる期間を示す「健康寿命」を公表した。男性71・19歳、女性74・21歳で、平均寿命との差は9~12年ある
▼その健康でない時期を支えるのが介護保険制度だ。厚労省は来年度の改定で、特別養護老人ホームへ支払われる介護報酬を引き下げる方針を固めた。利益率が高く、内部留保を抱える事業所があることを理由に挙げる
▼貯金できるぐらいなら、報酬を減らすという考え方は分からなくもない。しかし全国老人福祉施設協議会は「利益率が高いのは複数の施設を展開する一部事業所で、小規模施設は運営が厳しい」と削減に反対する。サービスの質の低下を懸念しているのだ
▼一部の課題をやり玉に挙げて、社会保障費を減らすのは政府の常とう手段だ。2012年にお笑い芸人の親族の生活保護受給問題が騒がれたころ、当時の厚労相は生活保護費の基準額引き下げを明言。翌年に実施した
▼国の財政難は共通認識であっても、弱者の最後のとりでである社会保障費は安易に手を付けていいものではなかろう。セーフティーネットが揺らぐと10年先の予定など描けない。