<金口木舌>171年ぶりの奇跡の夜


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 八重山の子守歌「月(つぃく)ぬ美(かい)しゃ」は情感豊かな旋律が心に染みる歌だ。〈月ぬ美しゃ十日(とぅか)三日(みーか) 女童(みやらび)美しゃ十七(とぅなな)つ〉。月の美しいのは十三夜で、少女が美しいのは17歳。物事が満ちる寸前の美しさをたたえる

 ▼民謡研究家の故仲宗根幸市さんは著書「島うた紀行」で「琉球列島では十五夜の満月をうたった歌は多いが、十三夜をうたったのは特異」と記す
 ▼よそに比べて、八重山は十三夜の月を重んじる文化があるのだろう。名曲「とぅばらーま」にも「月ぬ美しゃ」とほぼ同じ歌詞がある。1947年から続くとぅばらーま大会は、旧暦8月の十三夜に催すのが長年の伝統だ
 ▼八重山出身の現代の歌い手も「十三夜」を持ち歌とする。新良幸人さんは〈十三夜月に立ちゅる面影よ〉、池田卓さんは〈まん丸へと満ちていく今宵(こよい)素敵な十三夜〉〈少し欠けても美しい〉と歌う
 ▼古来、名月といえば年に2回。中秋の名月の十五夜(旧暦8月15日)と、翌月の十三夜(旧暦9月13日)だ。だが、ことしはもう1回チャンスがある。今夜がそうだ。旧暦9月がユンヂチ(うるう月)のため「後(のち)の十三夜」なるものが171年ぶりに出現する。次回は22世紀というから奇跡の一夜だ
 ▼完成されたものだけではなく、そこに至る過程にも真善美を見いだした先人たち。人生哲学にも通じる価値観に思いをはせながら、今夜は月を眺めたい。